AI買収は「買えば終わり」ではない Meta・Manusが映す世界的なM&A審査の変化
(趙 姝鴻・東京)AI企業をめぐるM&Aのルールが変わり始めている。これまでは買収額や市場シェアが焦点だったが、各国の規制当局は今、出資や提携、人材獲得、クラウド契約、データや計算資源への依存関係にまで目を向け始めた。ただしこれは「取引を一律に阻止する」動きではない。審査対象は広がっているが、実際には承認されるケースも多く、各国の判断基準も一様ではない。
その象徴が、Meta PlatformsとAIスタートアップManusの案件だ。Metaは2025年12月にManusを買収した。Reutersによると買収額は20億ドル超。しかし2026年8月11日、ManusはMetaから分離し、独立企業として再出発すると発表した。成立していた大型買収が、約8カ月で「巻き戻される」異例の展開となった。あわせてManusは、Meta傘下時代に一部ユーザーが生成したデータを削除するとも発表しており、資本関係の解消がデータ管理にまで及んでいる。

審査の対象は「買収」だけではない
この取引では、中国国家発展改革委員会が4月、外資によるManus買収を「投資禁止」と決定し、撤回を求めた。ただし、これを一国固有の問題として見るだけでは本質を見誤る。世界の主要な競争当局はすでに、AI企業と巨大テック企業の資本・提携関係全般への監視を強めているからだ。
米・英・EU・日本も監視を強化
米連邦取引委員会(FTC)は2024年、Microsoft・OpenAI、Amazon・Anthropicなど大手クラウド企業とAI開発企業の関係を調査。2025年の報告書(FTCスタッフによるもので正式な規制措置ではない)は、出資比率だけでなく計算資源へのアクセスや契約の排他性なども論点にした。少数株主持分でも実質的な支配力を持ちうるとの見立てだ。
英国では2024年、Microsoftによる Inflection AI の共同創業者ら人材の大量採用が英国競争・市場庁(CMA)の審査対象となった。会社そのものは買収していないが、CMAは「関連する合併」と認定。最終的に競争上の懸念なしとして了承したが、人材獲得だけの取引もM&A規制の射程に入り得ることを示した。
EUでは2024年、NVIDIAによるRun:ai買収を欧州委員会が審査。本来は届出基準に満たない規模だったが、イタリア当局の要請で審査対象となり、最終的に無条件で承認された。日本でも公正取引委員会が2026年4月、生成AI市場の実態調査報告書を公表し、継続的な監視姿勢を示している。
米英EUでは大手テック企業によるAI市場の囲い込みが主な論点だが、技術やデータが国家安全保障に関わる場合は別の投資審査が加わる。Meta・Manus案件は後者が大型M&Aを覆した例だ。審査対象が広がることと、取引が阻止されることは、必ずしもイコールではない。
「いくらで買うか」から「買い続けられるか」へ
これまでは「いくらで買えるか」が重要だった。これからは「本当に買えるのか」「買った後も持ち続けられるのか」まで問われる。Meta・Manusの20億ドル超の案件は、その変化を極端な形で示した。財務・法務に加え、競争・技術・データ・国家安全保障まで含めた「規制デューデリジェンス」が、AI企業買収の成否を左右する時代になりつつある。



