保育士の給与は上がっている。それでも人手不足が解消しないのはなぜか
外国人保育士の受け入れが進まない理由
目次
- 保育士資格の現状
- 数字で見る保育業界
- なぜ人手不足は解消しないのか
- 外国人材との関係
- 今後どうなるのか
- まとめ

保育士資格の現状
保育士は、子どもの保育や発達支援を担う国家資格である。
近年、日本では少子化が加速しているにもかかわらず、「保育士不足」という言葉は依然として頻繁に耳にする。その背景には、共働き世帯の増加や、保育の質に対する社会的な期待の高まりがある。
じつは、保育士資格の登録者数は年々増加しており、2020年代に入ってからもその傾向は続いている。一方で、資格を持ちながら実際には保育現場で働いていない「潜在保育士」も数多く存在するのが実状だ。
つまり、現在の保育業界は「資格取得者が足りない」のではなく、「資格を持っていても、現場で働く人が十分に増えない」という構造的な問題に直面している。そのため、近年の議論の焦点は、単に資格取得者を増やすことではなく、「いかに現場に人材を定着させるか」へと移りつつある。
数字で見る保育業界
保育士不足の原因として、長年真っ先に指摘されてきたのが「給与水準の低さ」だった。
この課題に対し、国はここ10年以上にわたり、保育士の処遇改善を強力に進めてきた。その結果、2024年度の保育士の平均給与は月額約27万7,200円、年収ベースでは約406万8,100円にまで上昇している。一部の調査では「平均年収が400万円台前半に達した」との報告もあり、パートタイムの時給についても1,400円台まで改善しているケースが見られる。
このように、国が賃金や労働環境の改善に継続的に取り組んできたことで、近年の給与水準は全体として確実に上昇傾向にある。「保育士の待遇は以前より良くなっている」という評価は、数字の上でも一定の根拠があると言えるだろう。
しかし、人手不足を示すデータに目を向けると、別の現実が浮き彫りになる。2026年現在でも、保育士の有効求人倍率は約4倍前後で推移しており、全職種の平均を大きく上回っている。
つまり、「給与は改善しているにもかかわらず、人手不足は依然として深刻なまま」というねじれ現象が起きている。
なぜ人手不足は解消しないのか
ここで一つの疑問が生まれる。
給与が上がっているのに、なぜ保育士不足は続いているのだろうか。
その背景には、少なくとも三つの要因があると考えられる。
①保育士の必要人数そのものが増えている
第一の要因は、保育の現場が求める保育士の数自体が拡大していることだ。
2024年度に、4〜5歳児の「保育士配置基準」が70年ぶりに見直された。これまで「園児30人に対して保育士1人」だった基準が、「25人に対して1人」へと手厚くなったのである。

これは保育の質を高めるための重要な改革として評価される一方で、保育施設側にとっては「従来よりも多くの保育士を確保しなければ運営できない」ことを意味する。さらに、1歳児の配置基準見直しについても議論が続いており、今後さらに需要が増加する可能性も指摘されている。
要するに、処遇改善によって現場の人数を増やそうとする一方で、制度改正によって『必要な人数』のハードルも同時に上がっているのが現状だ。
②地域による深刻な「偏在」
第二の要因は、地域格差である。
保育士の有効求人倍率は全国平均で「約4倍」だが、実態は地域によってバラつきが大きい。地方圏では比較的落ち着いた倍率の地域もある一方、東京や大阪などの大都市圏では、全国平均を遥かに上回る水準が続いている。
保育士不足は全国一様におきているわけではなく、特定の都市部に需要が集中していることが、体感としての人材不足をさらに深刻化させている。
③膨大な「潜在保育士」の存在
第三の要因は、潜在保育士の多さである。
第三の要因は、資格を持ちながら現場にいない「潜在保育士」の多さだ。
厚生労働省の資料によると、2013年時点での登録保育士数は約119万人(うち実際の従事者は約43万人)だった。その後も登録者数は増え続け、2020年前後には160万人台、2023年には約185万人にまで達している。
ここで注目すべきは、資格を持つ人が増えている一方で、潜在保育士の数も高止まりしている点だ。多くの有資格者が保育以外の業界で働いているか、あるいは労働環境などを理由に離職したままになっている。いくら資格取得者を増やしても、彼らが「現場に戻りたい」と思える環境を作らなければ、人手不足の根本的な解消には至らない。
外国人材との関係
こうした状況を背景に、多くの人が「介護分野では外国人材の受け入れが進んでいるのに、なぜ保育では進まないのか」という疑問を抱く。
確かに介護分野では、在留資格「介護」をはじめ、EPA(経済連携協定)、技能実習、特定技能など、外国人が活躍するための複数のルートが整備されている。しかし現在のところ、保育士資格に直接対応した専用の「就労在留資格」は存在しない。そのため、現在現場にいる外国人の多くは、永住者や日本人の配偶者など、もともと就労制限のない在留資格を持つケースが主流だ。一部、日本の大学等を卒業した外国人が特例的に保育業務に従事する事例もあるが、制度として確立されているわけではない。
保育分野で外国人材の受け入れに慎重なのは、主に二つの理由がある。
一つは、国内に数多く眠る「潜在保育士の復職・活用」を最優先すべきだという意見が根強いこと。もう一つは、保育という仕事が「子どもとの継続的な意思疎通」や「保護者への緻密な対応」を要するため、極めて高度な日本語能力や文化的背景の理解が求められる点だ。 2025年には、一部の経済団体から「特定技能制度に保育分野を追加すべき」との提言もなされた。しかし、2026年現在でも制度化には至っておらず、議論はようやくスタートラインに立った段階と言える。
今後どうなるのか
今後の保育業界は、単なる「一律の人手不足」という言葉だけでは片付けられなくなる可能性が高い。
配置基準の手厚化は今後も進むとみられ、保育のクオリティを追求する方向性は変わらないだろう。その一方で、日本全体の少子化は止まらない。地域によっては園児数が激減し、定員割れや閉園に追い込まれる施設も増え始めている。
つまり今後は、
- 都市部では人手不足
- 地方では需要減少
という「二極化」が進むと予想される。
また、外国人材の活用についても議論は継続するだろうが、専門家の多くは、介護分野のような大規模な受け入れ制度が短期間で導入される可能性は低いとみている。今後の真の焦点は、単に「頭数を増やすこと」ではなく、「今いる人材が、心身ともに健康に働き続けられる職場をいかに構築するか」にかかっている。
まとめ
保育士の給与や処遇は、ここ10年間で確実に改善されてきた。それは統計データを見ても明らかであり、現場を支える保育士にとって、間違いなくポジティブな変化である。
しかし、「給与が上がれば、人手不足が消える」というほど事態は単純ではない。配置基準の見直しに伴う必要人数の増加、都市部への需要の偏り、そして復職をためらう潜在保育士の存在――。こうした幾重もの要因が複雑に絡み合っているからこそ、保育士不足は今なお続いている。 保育士という資格や職業の未来を考えるとき、私たちは単に試験の難易度や給与の額面だけを見るのではなく、「なぜ人が定着しないのか」という業界全体の構造的な背景に、一歩踏み込んで目を向ける必要がある。



